やが君 考察

やがて君になる (アニメ)の考察ブログです!

やがて君になる 13話 考察 感想 ―やが君にありがとう―

この記事はやがて君になる13話の考察・感想です。ついに迎えた最終回。言いたいことが多すぎるのでまずはひと言。今はただ、感謝の気持ちでいっぱいです。

(※アニメのネタバレ有です!アニメ最終回までの内容を含むので、未視聴の方は先に視聴することを強くお勧めします。)

 

始めに

 ついに最終回となりました。もはやただ感謝しかありません。この記事だけであと何回感謝と言うか分かりません(笑)が、心からの想いです。やが君の「真髄」が見えた最終話にふさわしい神回でした!簡単に神回とか言わないでくれという気持ちも分かるので、なぜ神回と感じたか考察で述べさせていただきます。

ちなみに今回は色々な解釈ができるので、わざとTwitterや他の方の考察を全く見ないようにして記事を書きました。個人的には、これで他の方と同じ結論になっていたり違う結論になったとしてもとても面白いと思います!

今回の記事はまず13話の考察として①「燈子の光と影」②「侑の導き」について述べます。そしていつもの③「タイトル考察」をしたのち、④「終わりに」を述べて結びとさせていただきます。

 

燈子の光と影

13話では、燈子の光と影について対照的に描写されました。は燈子の中にある悲しい過去です。光は燈子の内なる光に加え、侑という燈子を外から照らす光があります。


燈子の影と3つの選択

まず影の描写です。燈子にとってのは、姉を失ってしまった過去と自分に対するの意識です。この罪の意識から、燈子は本来の自分(≠演じている燈子)に価値を見出せなくなり、償いとして姉の代わりとなることでしか自分の存在価値を認められません。

ここでキーとなるのは「3つの選択」です。生徒会劇の中で少女は3つの自分の中から選びます。この選択をすること自体が本来の彼女を完全に消し去る行為であり、現実世界の燈子にとっての償いです。13話では3という数字の概念すら情景描写で魅せてくれました。例えば、お墓のシーンでは3方向から燈子の姿が映されます。この後に述べる1人で電車を待つシーンも3方向からのカットです。加えて、侑と劇の練習をする場面でも物の数で「3」が示されています。素晴らしすぎる表現です!

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©2018 仲谷 鳰/KADOKAWA/やがて君になる製作委員会 ​



ここでさらに注目していただきたいのが、「3つの選択」という燈子の償いに対して罪としての「3つの選択」があることです。罪としての「3つの選択」とはあのジャンケンのことです。ジャンケンは、燈子にとって罪の塊です。

10話の考察記事で燈子はジャンケンで決めさせないためにドーナツを早く取ったというコメントを紹介しました。

yagakimi.hatenablog.jp

おそらくジャンケンは燈子にとってのトラウマでありこの罪を劇の「3つの選択」で元の自分を消すという形で償おうとしているのだと思います。一体どれだけ本来の自分を傷つけるのでしょうか…。

燈子の光

燈子にとってのは2つあると考えています。1つは燈子自身の中にある光。2つ目は侑という光の存在です。

燈子の中にある光は、本来の燈子が持っている魅力です。サブタイトルの考察とも重なりますが、完璧を演じていたはずの彼女はいつしか周りの人々を照らす灯台となっていました。実際、侑の心の光を灯したのは燈子です。ただ、彼女は自分の光には全く気づいていない、というよりむしろ見えないように目を塞いでいるといったところでしょうか。

一方で、外なる光である侑の存在はしっかりと目にしています。電車を待っている場面では、燈子の顔にかかる光と影の描写がありました。侑の存在によって光の部分が増え、顔が光に照らされる演出はまさにやが君らしい演出です。この部分は前に述べた3方向からのカットにもなっています。

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©2018 仲谷 鳰/KADOKAWA/やがて君になる製作委員会 ​

(右画像は侑の存在により光の部分が増している)

 

侑の導き

次は、影のかかった燈子を照らす光「侑」についてです。前回12話で侑の取った選択は「先輩を変える」でした。13話では、燈子を暗い深海から明るい海へ導く侑の姿が描写されます。水族館の演出は、本当に美しいシーンばかりで気が付けば息もできませんでした。

 

光輝く海へ

 これまで、アニメやが君では1話から一貫してが心情描写として用いられてきました。例えば、1話の時点では特別な気持ちが分からない比喩として深海の表現がありました。また、リレーのシーンで特別を知った9話では深海とは異なるキラキラした海の描写がありました。

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©2018 仲谷 鳰/KADOKAWA/やがて君になる製作委員会 ​

 (左が1話の深海、右が9話のきらめく海)

13話では、2つの海が対照的に描かれました。1つは燈子の暗い海、2つ目は侑が導いた明るく温かい海です。

 

まずは燈子の海に関してです。即興劇を終えた場面では燈子が暗い海に残され、侑が明るい舞台へ行き離れてしまう演出がありました。これは、離れ離れになり1人残される燈子の孤独な心境を表しています。1人残されるというのは姉を失い孤独になった燈子のトラウマです。1話の侑の孤独な心境も深海で表現したように、暗い海は孤独を演出しています。

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©2018 仲谷 鳰/KADOKAWA/やがて君になる製作委員会 ​



しかしここで重要なのが、侑は燈子の方へ振り向くということです。そして、燈子の伸ばす手を掴みました。いえ、直接的な描写上はここで手を掴んではないのですが明らかに侑は燈子に手を伸ばしました。燈子の驚いた表情から、侑が手を掴んでくれた感覚を得たのだと思います。

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©2018 仲谷 鳰/KADOKAWA/やがて君になる製作委員会 ​

 

この侑が燈子の手を掴んだという演出は、暗い海で孤独になっている本来の燈子を侑が明るい世界へ連れ出すことを示していると思います。ここから13話怒涛のやが君演出が展開されます。この1カットも無駄にしない感じが最高にやが君です!

続くシーンでは、水族館の水槽の前で行き場を見失う燈子を侑が導きます。まず、注目したいのが水槽の「仕切り」です。7話の考察記事では、窓の仕切りによって置かれている関係を表していました。

yagakimi.hatenablog.jp



13話の水槽の仕切りは、燈子の暗い過去と明るい未来の境界線に対応していると思います(左画像)。画面の右側が暗い過去、左側が明るい未来です。燈子はどこへ向かったらいいか分からず、暗い右側へ進もうとしてしまいます(中央画像)。しかし侑がここで手を掴みます!(侑ーーーー!!!)素直に感動しました…。燈子が暗い過去へ向かおうとしているところを、侑が引き留めたんですね。さっき燈子が感じた「手を掴んでくれた感覚」が嘘ではないと、侑が証明してくれました。

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©2018 仲谷 鳰/KADOKAWA/やがて君になる製作委員会 ​



侑に手を引かれる場面では、燈子の後ろが暗闇となっています。これは燈子視点の視界を示しています。恐らく、燈子の視点ではもうすでに全く周りが見えない暗闇の状況なのだと思います。だから、どこへ進んでいるのか分からず暗い過去へ行こうとしてしまった。でも、侑が過去と未来の境界を超え明るい場所へ導いてくれました…。

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©2018 仲谷 鳰/KADOKAWA/やがて君になる製作委員会 ​

 

ここの挿入歌「好き、以外の言葉で」はED曲「hectopascal」のCDに入っています。筆者も購入しておりCメロの部分が大変好きだったのですが、まさかここで使われるとは…。もはや感謝しかありません。

 
13話で登場する2つ目の海は、温かく光輝く海です。今までの海の描写の中で最もに満ち、生き物もいる素敵な海ですね。この光は2人にとっての特別な気持ちを示しています。2人の伸ばした手も特別な光に届いていますね。

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©2018 仲谷 鳰/KADOKAWA/やがて君になる製作委員会 ​

 

歩いている途中、燈子は侑の手をしっかりと握りしめます(下画像)。「この手を離さないで」と。それを受けて侑はとても切ない表情をしています。続く、言葉にされないモノローグは2人の特別な気持ちからでたものですね。ここは解説するのが無粋な気がするくらい美しい表現でしたので、本編を参照していただければ。

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©2018 仲谷 鳰/KADOKAWA/やがて君になる製作委員会 ​

 


陽だまりの中で

最後の電車のシーンでは、侑が劇のタイトルを入力します。タイトル案は『君しか知らない』。これは、即興劇で侑が述べていた部分です。侑が言っていたのは、侑や沙弥香たちは出会ってからの燈子しか知らないけどあなたの好きなものやくせを知っているということです。『君しか知らない』の「君」は本来の燈子のことを指していると思います。

ポイントは好きな花の色や小説は、燈子がお姉ちゃんから聞いたものではないという点です。8話で侑は燈子から直接好きな紫陽花の色を聞いていませんでしたが、やはり沙弥香から聞いていたのですね。燈子が侑が好きな気持ちと同様に、これらは本来の燈子の気持ちですよね。侑は本来の君(燈子)しか知らない、自分が見ているのはお姉さんじゃないよと言っていると思います。

電車のシーンのラストでは、燈子が侑にもたれて寝てしまいます。この場面でもまた「仕切り」が描写されていますね。ここでも仕切りという境界線上の位置から侑のいる場所へ向かっています。そして、背景の色がまた綺麗ですよね。いつもとは少し違った黄色の光。この鮮やかな黄色から筆者は「幸せ」を連想しました。やが君は色彩にもそれぞれ意味が込められていますね。

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©2018 仲谷 鳰/KADOKAWA/やがて君になる製作委員会 ​

 

 この後の、一瞬ためらいながらもこれまでとは違い燈子の手を握る侑の姿も感慨深いシーンです。

 

 

灯台

13話のタイトルの1つは灯台です。これは、海を照らす灯台であり燈子のことを示していると思います。理由についていくつかあるので述べます。

1つ目の理由としては、「燈子」という名前です。以前の記事にも述べましたが、「燈」には灯り(あかり)という意味があります。完璧を演じていた燈子は意図せずとも周囲の沙弥香や侑の心に光を灯しました。そして、これまで侑の心は水や海を用いて演出されてきました。海を照らすという意味での灯台。これほど燈子にぴったりな言葉はないと思いました。

2つ目の理由として、灯台もと暗し」という言葉も挙げられます。本来のこの言葉の灯台は燭台(ロウソク立て)ですが、海の灯台にも考え方は当てはまります。灯台の足元に光は差さないですし、自分が光を発していることも灯台には分かりませんよね。この状況は、水槽のシーンで燈子が暗闇の中行き場を見失ってしまう描写と一致しています。燈子の光によって侑の心に明かりが灯り、その光によって今度は燈子が導かれました。

このように、「灯台」とは燈子のことを指しているのだと思いました。

 

 

終着駅まで

最後のタイトル考察です。13話では燈子が電車に乗るシーンが2回ありますが、1人で乗る場面と侑と2人で乗る場面が対照的に描かれています。

1回目は沙弥香と会った帰りです。この時乗った電車は「終点まで先着」です。これは、終着駅まで「乗り換え」をしない電車です。

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©2018 仲谷 鳰/KADOKAWA/やがて君になる製作委員会 ​

 

ここで重要な解釈として「乗り換え」は演じている燈子が本来の自分へ乗り換えることを示していると思います。つまり、終着駅まで乗り換えをしないということは最後まで演じたままということになります。だから燈子1人で乗る電車は「終点まで先着」なのでしょう。しかし、この後の描写でこの電車が行き着く先は恐らく「死」なのではないかと思わされました。ぞっとすることに向かいの電車が通る際、燈子が一歩前へ踏み出していたのです…。まるで、お姉ちゃんのあとを追うように。冒頭で蝉の羽が落ちていたのも思い出しました。お姉ちゃんになるって、そういうことだったのでしょうか…。そんなの嘘ですよね?

ここまでだと絶望感が凄まじいですが、2回目の電車の描写がありました。最後に侑と共に乗る場面です。この電車の最後のシーンで侑が伝えた言葉を思い出しましょう。

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©2018 仲谷 鳰/KADOKAWA/やがて君になる製作委員会 ​

侑「先輩、そろそろ乗り換えですよ。」

うわあああああ!取り乱してすみません。しかし少なくとも13話では、侑は燈子を救いました。寝ていて乗り換えられない燈子(過去に縛られて起きない燈子)を起こし乗り換えですよ、と。こちらの電車の行き先はまだ分かりませんが、少なくとも「死」ではないことは確かだと信じています。

このことも踏まえ、この場面の侑のセリフはやはり含みのある表現に聞こえます。「このまま、起こさないのも悪くなさそうだけど」「先輩、そろそろ乗り換えですよ」というセリフです。

これは「このまま今の燈子と寄り添う関係でいるのも心地がいいけれど」、やはり「元の自分を嫌う燈子の気持ちを変えたい」ということではないでしょうか。燈子に頼られ、特別な気持ちを知ることができた今の状況を手放す危険があっても、侑は燈子を変えることを選んだんですね。やっぱり助けるという名前の意味の通り、「侑」は優しい人物でした。
このように、「終着駅まで」とは燈子の心境や行く末を示したタイトルだと思います。

今までたくさんのタイトル考察をしてきましたが、この「終着駅まで」が今までで一番侑の力で燈子の運命が動いた部分だと感じました。

 

 

終わりに

ついに13話が終わりました。最終回だなんて嘘ですよね?って思いたくなるくらい、人生で一番考察して心から楽しませてもらった作品となりました。

まずは皆さんに感謝を。素晴らしい表現で毎回驚かせてくださったアニメスタッフの方々、編集者のクスノキさん、そして仲谷先生本当にありがとうございました!
また、考察するきっかけを与えてくれたゆっちーさんやづかさん、コメントを下さった方々も本当にありがとうございます!

ここで、先ほど感謝を述べたゆっちーさんとづかさんのブログを紹介いたします。

ゆっちーさんは原作未読でありながらすさまじい考察をされており、筆者が考察を書くきっかけとなった方です!

www.anime-kousatsu.com


づかさんはいつも自由な発想に驚かされます。自分にはない視点でタフな考察をされています!

zuka-poke.hatenablog.com

以上がブログ紹介になります。


正直、やが君の続きをアニメ2期で見てみたいという気持ちでいっぱいです。そのこともあって微力ながら私もBlu-rayを全巻購入させていただいています(誠に勝手ながら制作会社さんへの感謝からTROYCAで予約してます)。
普段は商品のおすすめはしないのですが、最後に公式サイトの映像商品へのリンクを貼っておきます。

yagakimi.com




あの光や水、指先などを用いた空間演出・心情描写が見れなくなると本当に寂しいですが、ここまで作品を好きになれて幸せでした。

アニメはいったん終了になりますが、原作は続いているので私もまずは読み止めていたコミックの続きから読もうと思います。

それでは今後も何か書くかもしれませんが、ここで一度終わりにしようと思います。
今まで本当にありがとうございました!

 

やがて君になる12話 考察 感想 ―特別に届いた侑の選択―

この記事はやがて君になる12話の考察・感想です。ついに侑が走り出しました!タイトルや挿入曲も含めて、素晴らしい回だったと思います。それゆえに書きたいことが山ほどありますが、膨大な量になるので特に取り上げたい部分について言及します。

(※アニメのネタバレ有です!アニメ最新話までの内容を含むので、未視聴の方は先に視聴することを強くお勧めします。)


気が付けば息もできない

 12話のタイトルは「気が付けば息もできない」です。私は息ができない場所として、①宇宙②海中を連想しました。

この2つの場所は侑が特別を知りつつも身動きの取れないという相反する2つの状態を示しています。

 

①「気が付けば宇宙(そら)の中に」

12話のタイトルを象徴する場面はラストのプラネタリウムのシーンです。

過去の記事でも述べましたが、キラキラした虹色の光は侑の「特別」な気持ちを表しています。以前の侑は、この特別な光プラネタリウムの星)に届かないでいました。

3話の「まだ大気圏」ではプラネタリウムの星に手が届かず、特別な気持ちに触れられない侑が描写されています。この天井に星が映された3話「まだ大気圏」とは対照的な形で、12話では侑はプラネタリウムを手に持ち、星の光を浴びています。

これは「大気圏」という空から宇宙(そら)へと飛び立ち、輝く星たちと共にある(=特別な感情に届いた)ということだと思います。

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©2018 仲谷 鳰/KADOKAWA/やがて君になる製作委員会 ​



侑が「特別」な気持ちに届き、息もできない場所(宇宙)へ到達したことを示したのが「気が付けば息もできない」だと考えられます。

OPのプラネタリウムの場面は、3話ではなく12話のシーンだったのですね。侑が星の光を浴びているので、「特別」に届いた場面だと分かります。

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©2018 仲谷 鳰/KADOKAWA/やがて君になる製作委員会 ​




②「気が付けば海の中に」

この解釈を象徴するシーンは侑の部屋の場面です。侑が特別な光に届いた一方で、燈子は侑の好意を拒否します。「侑は私のこと好きにならないでね?」と。これは、宇宙へと飛び立った侑を、海中へ引き戻す言葉です。

燈子の「私のままの私に何の意味があるの」という問いかけに対して侑は「…先輩は」と答えようとしますが、燈子はキスで侑の言葉を奪います。このシーンは燈子のキスにより侑が息ができない(身動きが取れない)ことを表していると思います。侑の続きの言葉は燈子への好意を示してしまうので、言えなかったし言わせてくれなかったのでしょう。

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©2018 仲谷 鳰/KADOKAWA/やがて君になる製作委員会 ​

 「先輩は…」

この、燈子の拒否によって宇宙から海中(星の光の届かない場所)へ引き戻されてしまう状況を示したのが「気が付けば息もできない」という解釈もできます。海と宇宙、どちらも同じ「息もできない」場所ですが、侑にとっての意味合いは全く違うものとなっていますね。

 

 

ついに届いた「特別」

ついに特別な光を掴めた侑…。12話では、侑が「特別」に届いたことを示す描写があります。今までの侑を考えながら見ると、どれも非常に感慨深いシーンです。

 

①踏切の光

12話ともなると、やが君の中で踏切が特別な場所ということはおなじみですね。このシーンでは、侑が踏切を見たことで燈子との「特別な思い出」が回想されます。特別を示すキラキラとした光の演出は、息ができなくなってしまうほど綺麗でした!いつしか「何も感じない」と言っていた侑ですが、その思い出は今では鮮やかに色づいています。

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©2018 仲谷 鳰/KADOKAWA/やがて君になる製作委員会 ​



 
②伝えられない「その言葉」

侑が家から帰る燈子を見送るシーンではモノローグで侑の本心が語られます。しかし、重要な「その言葉」「ばか」という言葉にかき消されて聞こえません。ですが、確かに侑の気持ちは特別に届いています。

だからこそ、思い切り叫ぶほど想いがあふれているのでしょう。そして侑自身もそれをはっきりと自覚していることが描写されました。伝えられない「その言葉」、侑は燈子にしっかり伝えることができるのでしょうか。

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©2018 仲谷 鳰/KADOKAWA/やがて君になる製作委員会 ​




走り出した侑

上の記事では12話における「侑が特別に届いたこと」「燈子が壁を作っていること」について述べたつもりです。この状況に対して、侑はアクションを起こします。この行動力は沙弥香とは対照的です。11話では沙弥香も勇気を出して踏み込みましたが、侑はさらに走り抜けます。

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©2018 仲谷 鳰/KADOKAWA/やがて君になる製作委員会 ​

 「それでも、あの人を…七海先輩を!」

侑が走り出すこのシーン。胸が熱くなりますよね。燈子の作る壁に対して、侑のとった選択は「七海先輩を変える」でした。たとえ望まれていなくても、拒絶されようとも侑は走り出しました。

この場面ではバックに赤信号が出てきますが、侑は駆け抜けます。これは、燈子が止まれと言ってもなお突き進む侑の姿を表しているように感じました。

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©2018 仲谷 鳰/KADOKAWA/やがて君になる製作委員会 ​



 走り抜けてこよみの家に到着した侑。脚本の結末を変えたい理由を聞いた時、本当に心を動かされました。

「なのに、過去を基準にして結末を導くんじゃ…。まるでこの劇の時間に意味がなかったみたいだ。」

ここでいう劇の時間とは、侑や生徒会のメンバーが現実で過ごした燈子との時間のことと対応しています。現実世界においても、燈子は過去を基準にして結末を導こうとしています。侑と過ごした今までの時間も、まるで意味がないかのように。

しかし侑は、それが本当の燈子の意志ではないと言いました。そうであってほしくないという、侑の願いもあると思います。これまでの時間が無意味だなんて、切なすぎる結末です。だから侑は走り出しました。あとは燈子を変えるだけです…!

 

含みのある描写

ここでは、上記で取り上げられなかった含みのある描写に関して言及します。

 

①アイスが溶ける描写と「つめたい」

侑と燈子がキスをするシーンでは、アイスが溶ける描写があります。これは、侑の心が解けることの比喩だと感じました。合宿では距離を置かれこわばっていた気持ちがやわらいだのだと思います。

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©2018 仲谷 鳰/KADOKAWA/やがて君になる製作委員会 ​



 また、その後の「つめたい」は本当に声優さんの演技がすごかったです。この「つめたい」の意味はそのままの意味もあると思いますが、自分を嫌う燈子の心を冷たいと言っているようにも聞こえます。この場面の侑は優しくも少し憂いのある表情です。

燈子本人は含みに気づいてないと思いますが、「優しいね、侑は」という顔をしているので優しさを感じ取ったのかもしれません。そして、両者には陽だまりのような光の描写があり、特別な気持ちがあることを示しているように思います。

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©2018 仲谷 鳰/KADOKAWA/やがて君になる製作委員会 ​


②十字路と「止まれ」

侑が燈子を家に誘う帰り道では、十字路に2人の影が重なるシーンがあります。これは、十字架のようにも見えました。十字架から私が連想したのは、「罪と赦し」「愛」「苦難」などです。

燈子にとって過去の出来事はであり、侑はそれに対する許しを与える存在です。その一方で、侑は愛しい気持ちを持つことができず苦難と直面しています。この場面での侑の言葉からも苦難に耐えている様子が表れているように思います。

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©2018 仲谷 鳰/KADOKAWA/やがて君になる製作委員会 ​

 「ちゃんと守ってるんだから、先輩も信じて下さい! わたしのこと。」

 
また、「止まれ」の標識が今回も描写されました。ここでの止まれの意味は、侑に対する燈子の止まれ(好きにならないで)を示しているように思いました。

 


他の方のブログ紹介

 最後に、他の方のブログを紹介したいと思います。
まずはいつも紹介させていただいているゆっちーさんのブログです。

特筆すべきは、私が悲しみのあまり記事にすることができなかった(笑)侑と沙弥香の対比について見事に考察されています!本当に、一体沙弥香が何をしたというのでしょうか。

また、燈子と侑のキスシーンもとても丁寧に考察されています。大気圏の考察などは私の意見と重なるところもありました。

www.anime-kousatsu.com


そしてづかさんのブログです。

プラネタリウムに関する考察もさることながら海、陸地、宇宙という3つの層で捉え「理想」と「現実」を対比させている点は大変面白くおすすめです!

zuka-poke.hatenablog.com



以上が12話の考察・感想です。今までつらい場面が続きましたが、ついに侑が走り始めました!やはり燈子は望んでいなくとも、いつかは必ず向き合わなければならない問題だと思います。侑は燈子を変えることができるのでしょうか。

最終話は原作準拠のため、そのまま原作の続きが読める締め方だと思いますが楽しみに待ちましょう!

そして、ここまで読んでくださった方ありがとうございました!


 

やがて君になる 11話 考察 感想 ―燈子の沈黙、沙弥香の一歩―

この記事は、やがて君になる11話の感想・考察です。11話では、燈子にとってあまりにも衝撃的な事実の判明や、沙弥香の踏み込む姿が印象的でした!

(※アニメのネタバレ有です!アニメ最新話までの内容を含むので、未視聴の方は先に視聴することを強くお勧めします。)

 

燈子の姉と七海澪

11話では、燈子にとってあまりにも衝撃的な事実が判明しました。それは、燈子の思っていた「お姉ちゃん」と市ヶ谷さん達から見た「七海澪」が全く別の人物像であったことです。市ヶ谷さんは燈子に対して「澪と七海さんはあんまり似てないな」とまで言っています(爆弾発言ですよ市ヶ谷さん!!笑)。

これは、燈子にとっては自分の存在意義が無くなるほど致命的なことです。燈子は本来の自分には「何もない」と思っていますから…。


市ヶ谷さんとの会話のシーンではいくつか印象的な演出がありました。

まず、燈子が歩いている道にかかる影の演出です。これは、自分の進むべき道が分からなくなってしまい、先が真っ暗になってしまった燈子の状況を示していると感じました。

加えて、偶然かもしれませんがその後のシーンでも燈子の目の前の道がカーブしていて先が見えない構図になっていました。

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©2018 仲谷 鳰/KADOKAWA/やがて君になる製作委員会 ​

 

次に、蝉の演出です。市ヶ谷さんに「君のほうが立派に生徒会長してるよ」と言われた時に燈子は悔しさから歯を食いしばります。その次の瞬間、蝉は燈子を恐れるようにどこかへ飛び去ってしまいます。この演出により、燈子の憤りや悔しさの強さを強調していると思いました。

自分が今までずっと、あれほど必死に演じてきた「お姉ちゃん」は一体なんだったんだという燈子の憤りは凄まじいものだと思います。

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©2018 仲谷 鳰/KADOKAWA/やがて君になる製作委員会 ​


沙弥香の一歩

11話では燈子の衝撃が大きな出来事ですが、個人的にそれ以上に驚いたのが沙弥香の踏み込んだ姿です。7話のコーヒーの考察記事でも述べた通り、 沙弥香は今まで自分の思いを飲み込み相手には踏み込まない人物でした。

少なくとも7話の時点では燈子に対して踏み込まず、このままでいいという心境でした。そのこともあったので11話で沙弥香が燈子に踏み込んだことはとても衝撃的でした。そのため、冗長になりますが少し丁寧に見ていきたいと思います。

沙弥香が燈子に踏み込んだシーンを確認します。燈子はこの時点で侑や沙弥香から見て明らかなくらい落ち込んでおり、沙弥香はそれを見て線香花火に誘います。1年男子が離れているとはいえ、燈子が人前であからさまに落ち込むということは滅多にないことだと思います(普段は完璧を演じているため)。これだけでも燈子がとても大きなショックを受けていることが分かります。

 

ちなみに、燈子が落ち込んでいるときに見つめている先は恐らくです。しかし、侑に対しては「優しさを使い尽くしてしまうのが怖い」と感じています。

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©2018 仲谷 鳰/KADOKAWA/やがて君になる製作委員会 ​

 

線香花火をしながら、沙弥香は「どうかしたの?」と燈子に問いかけます。しかし燈子は「別に…」といつものように本心は話しません。いつもならここで沙弥香は「そう。」というところですよね。しかし、今回は「市ヶ谷さんと何か話してたの?」と続けます。ここで沙弥香の動揺により線香花火が落ちる演出が入ります。


これでもなお沈黙を続ける燈子。そして沙弥香は、「市ヶ谷さんって…」と言いかけて止まります。

この時、沙弥香は心の中でかなり葛藤していたのだと思います。沙弥香は、燈子との今の関係が壊れてしまうことを7話であれだけ恐れていました。

侑とは違って沙弥香は過去に好きな人と別れる経験をしています。好きな人を失う辛さを知っている沙弥香は、侑以上に臆病になってしまうのではないでしょうか。

それでも沙弥香は「市ヶ谷さんって生徒会のOBだって聞いたわ」「燈子のお姉さんの話?」と燈子に問いかけます。沙弥香は恐怖を感じながらも、一歩踏み出すことを選んだんですね。今までの沙弥香とは明らかに違う行動です。この時、燈子も目を見開いて驚きます。

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©2018 仲谷 鳰/KADOKAWA/やがて君になる製作委員会 ​

 

沙弥香が不安な表情をする中、ついに燈子が沙弥香に対して本心を打ち明けます。これは、燈子にとっても初めて沙弥香に本心を打ち明ける場面だと思います。

そのあと燈子は「沙弥香知ってたの 姉のこと」と問いかけます。沙弥香からしたらとても恐い場面です。沙弥香は「ごめん」と謝ります。

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©2018 仲谷 鳰/KADOKAWA/やがて君になる製作委員会 ​

沙弥香「ごめん」


緊張が続く中、燈子は「沙弥香ならいいよ」「心配してくれてありがと」と返します。ここでの燈子の言葉は明らかに普段とは別のトーンでした。この言葉は、演じている七海燈子ではなく、「本来の彼女」の言葉なのではないでしょうか。沙弥香はこの言葉を聞いて驚きつつ、安堵と嬉しさで微笑みます。

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そして沙弥香と燈子を見た侑は…。侑から見ると、「なんで燈子先輩は私を頼ってくれないの」という気持ちですよね。燈子が頼ってくれない理由も分からないのでなおさらです。

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少し冗長になりましたが、ここまでの2つの見出しで①市ヶ谷さんの言葉により燈子に変化②燈子の変化による沙弥香の変化③沙弥香の変化による侑の変化という流れについて述べたつもりです。

 

沙弥香が踏み出した理由

最後に、沙弥香がなぜ11話で燈子に踏み込んだのかが疑問だったので取り上げます。いろいろ考えたのですが、筆者としては燈子のあまりに落ち込んだ姿を見て踏み込もうと決めた」のだと思います。

今回沙弥香が踏み込んだ話題は、燈子の不安を和らげる意味こそありますが、沙弥香の特別な想いを伝えられるわけではありません。一方で、沙弥香からすれば燈子に嫌われるという大きなリスクがありました。

それにも関わらず沙弥香が踏み込んだのは、やはり燈子を助けたいという思いが強かったからではないでしょうか。自分の好意を伝える時は思いとどまったのに、燈子が辛い思いをしている時は踏み込んだってことですね…。侑もとても優しい人物ですが、沙弥香もまたとても優しい心の持ち主だと感じました。

そして、今回の沙弥香の踏み込む姿は侑と少し似ていると思いました。もちろん、侑の行動と沙弥香の行動では心のハードルが全然違うと思います。何しろ侑は、6話の時点で燈子に対して「ほんとはさみしいくせに!」と思い切り踏み込んでいます。強すぎる後輩です笑
ただ、沙弥香が侑に似た行動をしたことは確かであり、これはお互いに影響しあっているのかなと思いました。

 

三角形の重心

Aパートのタイトルは、三角形の重心です。数学における三角形の重心は、三角形の3本の中線が交わる点のことです。そのまま解釈すると三角形は燈子、侑、沙弥香の関係を示していると考えられます。その重心というタイトルの意味について、今回は2つの解釈を考えました。①合宿時点での3人の関係 ②重心=劇という解釈です。

 

①合宿時点での3人の関係

一つ目の解釈は、シンプルに合宿時点での3人の微妙な距離感を示しているというものです。3人で寝るシーンが分かりやすいですが、合宿ではそれぞれ今の距離感を保とうとしています。

この少しずれたらすべて壊れてしまうような微妙な距離感重心というタイトルで表しているのではないでしょうか。

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②重心=劇

二つ目の解釈は、3人の交点がだというものです。この解釈は、8話考察記事で述べた8話タイトル「交点」の考察とも関連しています。

6話で燈子が語っていたように、燈子にとって劇は姉のやり残したことであり、代わりに自分が成功させようとしています。

その一方で、侑と沙弥香は燈子がこのまま完璧を演じ続けることをよく思っていません。侑と沙弥香は燈子が無理をしている状態だと分かっているからです。

加えて沙弥香は、今の燈子は人の好意を受け入れるだけの余裕がないと思っており気持ちを伝えることをためらっています。沙弥香は、燈子に姉の代わりを目指して欲しくはないのだと思います。

Aパートのラストでは、劇を成功させようという燈子と市ヶ谷さんの会話を聞き、思いつめた表情をする沙弥香が描写されます。

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これらのことから、3人のそれぞれの思惑が交差する点として劇という重心があるのではないでしょうか(今更ですが、8話の「交点」で横断歩道や交差点が出てきたのは、「交差する点」を示していたのかもしれません)。

 

導火

 Bパートのタイトルは導火です。導火とは火薬に火をつける口火のことで、転じて物事が起こるきっかけを示す言葉でもあります。

11話における物事のきっかけと言えば市ヶ谷さんの爆弾発言でしょう!笑 口火というにはあまりにも衝撃が大きかったですが…。この言葉により、燈子にとって今までの努力が無意味も同然となってしまいました。

 

しかし、連鎖的に沙弥香や侑にも変化が起き始めました。沙弥香は燈子に対して踏み込むようになり、燈子は沙弥香に自分の気持ちを打ち明けます。そして侑はそれを見て嫉妬します。燈子が中心で沙弥香と侑が振り回されるという構図がまさに燈子らしいですよね。

この、

①市ヶ谷さんの言葉により燈子に変化

②燈子の変化による沙弥香の変化

③沙弥香の変化による侑の変化

という連鎖のきっかけ(市ヶ谷さんの爆弾発言)が「導火」だと考えられます。

ただ、導火というタイトルが浮かぶシーンがもう一つありました。それは、燈子が沙弥香に「いいよ」と伝えた場面です。この場面では、線香花火瞬火花が散る演出が入ります。

もしかすると、燈子の心が変化するきっかけという意味では沙弥香の行動が最も重要な「導火」だったのかもしれません。もちろん、この場合も元は市ヶ谷さんの言葉が原因ではあります。

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他の方のブログ紹介

最後に他のブロガーさんの紹介です。

いつも紹介させていただいているゆっちーさんです。蝉の鳴き声の描写や、燈子の「沙弥香ならいいよ」という言葉の考察が見事です!

www.anime-kousatsu.com


続いてづかさんの記事を紹介させていただきます。今回もまた独特な視点の考察をされています。特に、「視線」に注目した重心や侑の心情についての考察が斬新でした!

zuka-poke.hatenablog.com

 

以上が11話の考察・感想になります。今回は特に沙弥香が踏み込んだ点が印象的でした。物語としては、市ヶ谷さんの爆弾発言により燈子にとって大きな問題が起こりました。それに伴い沙弥香や侑にも大きな変化が表れています。まさに燈子は台風の目ですね(笑)。この状況から3人が幸せになることはあるのでしょうか。いよいよ残すところあと2話となりましたが、心して注目しようと思います。

そして、ここまで読んでくださった方ありがとうございました!

 

やがて君になる 10話 考察 感想 ―言葉にならない確かな気持ち―

この記事は、やがて君になる10話の感想・考察です。10話では、侑と燈子のすれ違いやドーナツによる描写が特に印象的でした!(※アニメのネタバレ有です!アニメ最新話までの内容を含むので、未視聴の方は先に視聴することを強くお勧めします。)

 

 

すれ違う2人の気持ち

10話全体を通して、侑と燈子の気持ちのすれ違いが明確に描かれています。すべて取り上げることは難しいのですが、特に印象的なシーンについて述べます。考察というより解説になりますが、後述の考察で触れるので先に述べます。

 

まず、ドーナツ屋さんでのシーンです。ここでは、侑に嫌われたくないという燈子の気持ちと、燈子ともっと近づきたいという侑の気持ちが見事にすれ違っています。「侑に嫌われたくないから」と話す燈子に対し、侑は「べつにそんなの」とまで言って言葉を紡ぐことができず、「…まあ いいことだと思いますけど」とつぶやきます。たった一言、燈子ともっと近づきたいという言葉が伝えられませんでした。

燈子「合宿に限らずもうちょっと抑えなきゃと思ったの 侑に嫌われたくないから」

「べつにそんなの」「…まあ いいことだと思いますけど」

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 この後「先輩 燈子先輩」と侑の声が聞こえますが、燈子は反応していないのでモノローグでしょう。また、燈子は「とうこ せんぱい」と侑が言った瞬間に左手で耳をふさいでいるような描写になっています。これは、侑の好意は受け付けないということを示しているのではないでしょうか。

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Bパートでは、侑と燈子が電話をするシーンが描写されました。ここでは、2人のモノローグが見事に対照的なものとなっています。燈子はモノローグで「侑は私が何をしてもしなくても きっと本当のところで興味なんかないんだ」と述べています。


一方で、侑は燈子の思いとは裏腹に「先輩と話すとざわざわする」と感じています。ここでも見事にすれ違っていますね。そして最後に、「もう どうでもよくなんかないよ」と燈子に話します。このセリフは、侑の本心からでた言葉です。侑にとって、燈子との何気ない会話一つひとつが「どうでもよくなんかない」存在に変わっているのだと思います。侑から見れば嬉しいことでもあり、この先が恐いところでもありますね。

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 「もう どうでもよくなんかないよ」

 

ドーナツの描写と侑の「ずるい」

上の文でも触れましたが、Aパートでは侑と燈子がドーナツ屋さんで勉強会をするシーンがあります。この部分のドーナツの描写についての考察です。


まず、残りのドーナツで侑も食べたかった方を燈子が独り占めしてしまうシーンは、燈子だけが特別な気持ちを求められる(味わえる)ことを示しているように思います。侑の「わたしもそっちがよかったのに」というセリフは、「わたしも自分の想いを伝えたい」といっているようにも聞こえます。

そして侑の本心が垣間見える「ずるい」というセリフ。これは、「特別」を独り占めする燈子に対しての「ずるい」だったのではないかと思います。普段は淡々としゃべる侑とは対照的に、とても感情のこもったセリフでした(声優さんってすごいです)。

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「ずるい」 

 

ちなみに、侑は最後に自分が好きじゃないほうのチョコレートドーナツを食べています。これは、沙弥香のコーヒーの時と同じく苦い気持ちを飲み込むということを示しているのではないでしょうか。確認してみると、複数あるドーナツの中でチョコレートドーナツ(苦いもの)は一つしか見当たらず、燈子は一つも食べていませんでした。燈子は甘いドーナツのみ食べていたことになります。ほんと燈子ってずるいですね…!笑

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そして、飲み物に注目してみると、侑の頼んだものはアイスコーヒーのように見えます。侑って、あんまりコーヒーを飲むイメージがないんですよね。ここでコーヒーを頼んでいるのは、沙弥香と同じく苦い気持ちを飲み込む場面だからではないでしょうか。

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私未満/昼の星/逃げ水

 

私未満

 「私未満」というタイトルは、燈子の自己否定的な心境を示していると思います。こよみの書いた原稿でも示されていますが、燈子は「何もない少女」の役です。燈子は完璧を演じない本来の自分のことを「何もない」と表現しており、だからこそ姉を演じることで自分に意味を持たせようと考えています。この、私には何もないということを違った表現で示したのが「私未満」です。誰でもないわたし(燈子)は「私」に満たない存在、ということだと思います。燈子は、過去の出来事から自分が本当に嫌いになってしまったんですね。

 

Cパートでは、燈子がアバンで話していた「夢の話」が描写されます。沙弥香の言うように、燈子は今もこの記憶を何度も思い出し「自分なんかのせいで」と許せない気持ちになっているのではないでしょうか。だからこそ、短冊でも生徒会劇の成功を何よりも願っているのですね。

 

アニメ3話で燈子は侑に「君はいつも私を許してくれるね」と言っていましたが、10話を見た後だと「許す」という言葉の意味がまた重みを増しているように感じます。ただ、この問題は侑や他の誰かではなく燈子自身が自分を許すことができなければ前に進めないようにも思います。とても難しい問題ですね…。

 

昼の星

Aパートのタイトルの1つは「昼の星」です。ここでいう星は、侑の燈子への特別な感情のことを指していると思います。10話では、ドーナツ屋さんのシーンで侑の気持ちがとして描写されていました。

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ここで重要なことは、昼の星は見えないのですが確かに存在しているということです。いくら侑が特別な気持ちを隠したとしても、確かにそこに星(特別な気持ち)があるということを表していると思います。白紙のまま飾られた短冊にも、見えないだけで確かに願いが込められています。願いがなければ、わざわざ飾ったりはしませんよね…。握りしめられた短冊は、侑の締めつけられる心を表しているように感じます。この白紙の短冊の願いについては、視聴者が自由に想像できますね。色々な予想ができる部分ですが、筆者は「燈子先輩と恋人になれますように」という誰もが考える願い事をしたと思いました。

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ちなみに、OP考察の記事でも述べましたがOPの最後に表れる星や2人を示す花についてもう一度触れておきます。このシーンの星が集まった線は、10話で七夕が出てきたことからもやはり天の川だと思います。そして、ラストの2人のいた場所に表れた花は、織姫彦星と対応しているように思います。ただ心配なのは、織姫と彦星は離れ離れになってしまうということですね…。しかし、描写的にはかなり2人(2つの花)の距離は近いので、杞憂かもしれません。

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逃げ水

Bパートのタイトルは「逃げ水」です。このタイトルは個人的に解釈が難しく、説得力に欠けるかもしれませんが一応筆者の解釈を述べます。「逃げ水」とは夏の日などにアスファルト上に水たまりがあるように見える現象のことです。実際には水は存在せず、近づいても逃げるように見えることから逃げ水と呼ばれます。このことから、「逃げ水」というタイトルについて2つの解釈を考えました。①侑の燈子に対する好意②燈子から見た侑の気持ちです。

まず一つ目の解釈についてですが、逃げ水「侑の燈子に対する好意」を示していると感じました。以前OP考察の記事でも述べたのですが、侑の特別な気持ちを象徴していると考えられます。加えて、侑は燈子に対して好意を自覚していますが、近づこうとすればするほど、燈子は侑から遠ざかってしまいます。これは、8話で侑が「嬉しい」と言った時に燈子が拒否反応を示したことからも明らかです。この状況を示しているのが「逃げ水」というタイトルなのではないでしょうか。

 

次に、②燈子から見た侑の気持ちという解釈についてです。侑と燈子が電話をするシーンで、燈子は侑に対して「きっと本当のところで興味なんかないんだ」と考えています。燈子にとって、「侑の燈子に対する好意」近づいても近づいてもたどり着くことのない実際には存在しないものです。このことを示したのが「逃げ水」というタイトルという解釈です。

 

2つの解釈を述べましたが、重要なポイントとして「昼の星」「逃げ水」が対照的なタイトルということが挙げられます。昼の星は「目には見えないけれど確かに存在する」ものであり、逃げ水は「目には見えるけれど実際には存在しないもの」です。そして、昼の星は確かに存在し、逃げ水は人の錯覚であるという点も重要です。侑と燈子は「侑の燈子に対する好意」隠したり存在しないものとしていますが、それはあくまでも錯覚だと考えられます。実際には目には見えずとも星(侑の特別な想い)は確かにあるということが2つのタイトルが示していることではないでしょうか。

 

他の方のブログ紹介

最後に、筆者が紹介したいと思うブロガーさんについてです。

前回に引き続きゆっちーさんの記事を紹介いたします。すれ違いの考察は同じ部分もありますね。特に印象的だったのは「もう どうでもよくなんかないよ」という侑の気持ちを詳しく考察されている部分で、説得力のある記事でした!

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また、ゆっちーさんの記事で触れておきたいコメントがあったので引用させていただきます。
NFさんのコメントです。

残った2つのドーナツで、 燈子には物事をじゃんけんで選ぶことはできなくなっているのではないでしょうか?
「じゃんけんで決めよう」それを避けるために即決する。

このコメントを読んでとても腑に落ちました。普通の流れであれば、おそらくジャンケンで決めますよね…。燈子はそれを避けるためにもすぐにドーナツを食べたのかもしれません。やはり他の方のコメントや意見で新しい視点が生まれるのは面白いです。

次にづかさんの記事を紹介いたします。また斬新な視点の考察をされています…!特に、入道雲クリオネの考察がとても面白かったです!

zuka-poke.hatenablog.com

 

以上が10話の考察・感想になります。 

今回は特に「逃げ水」というタイトルの解釈が難しかったのですが、もしよろしければその点についてコメントなどをもらえるとありがたいです(あまり整理できていないように感じるので)。

10話は記事にまとめるのが難しい回でしたので、今後また修正するかもしれません。


そして、ここまで読んでくださった方ありがとうございました!

やがて君になる 9話 考察 感想

この記事は、やがて君になる9話の感想・考察です。(※アニメのネタバレ有です!アニメ最新話までの内容を含むので、未視聴の方は先に視聴することを強くお勧めします。)

 

はじめに

9話では、侑が「特別」を自覚したという点で物語がまた一つ進んだ回でした。背景の描写では1話からの伏線もありとても丁寧に作られている作品だと改めて感じました。構成としては、特に侑の心情変化が視聴者が理解しやすいようになっていて見事でした。そして、リレーや体育倉庫のシーンでは圧倒的空間描写が素晴らしく、やが君らしい綺麗な演出でした。

 

侑の心情変化

アニメやが君の全13話における9話の大きな出来事は侑が「特別」を自覚したという点です。9話を侑の心情変化という点で見ると①槙くんとの対話②リレーでの「特別」の自覚③体育倉庫での葛藤という流れがあり、視聴者が侑の心情を追いやすい見事な構成になっています。冗長かもしれませんが、少し丁寧にそれぞれの場面を確認していきます。

 

①槙くんへの言葉からみる侑の本心

ここでは、槙くんと侑が「特別な感情」について語り合います。水の描写については後述します。ここでは侑の言葉と心情について確認します。

この場面では、侑は槙くんに対して“自分の気持ち”を述べます。しかし、これは侑の本心とはむしろ反対です。以下は侑の言葉の一部です。

「七海先輩のこと好きじゃないから」「わたしは誰も好きにならないもん」「槙くんはそれを寂しいと思ったことはないの?」「わたしももう好きになろうなんて思わなくていいや」

侑の本当の気持ちはむしろ、「七海先輩のことが好き」「寂しい」「もっと好きになりたい」ではないでしょうか。ちなみに、侑は嘘をつくときどうしても目をそらしてしまいます。

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この場面では、侑は自分の本心に気付かぬフリをしているように見えます。槙くんだけでなく、自分にも嘘をついているとも言えます。ではなぜ侑は嘘をついているのでしょうか。筆者なりの考えは、「燈子を好きな気持ちを認めたらより苦しくなると直感的に理解しているから」だと思います。

とても複雑なので分かりやすく説明しにくいのですが、この時点の侑の心情や行動をまとめると以下のようになります。

・燈子に対して特別な感情があると心のどこかでは分かっている

・燈子への想いを認めると自分がより苦しくなると直感的に理解している

・苦しまないため、自分や周りに燈子が好きという気持ちを隠す


②「特別」を知ったリレー

リレーの場面で、侑は明らかに「特別」を自覚しました。恐らく、侑は走り終わったのにもかかわらず心臓が高鳴っていることに気づいてしまったのではないでしょうか。まるで、時が止まったかのように、燈子と自分だけの世界を見ています。これは、特別以外の何物でもありませんよね。このシーンの圧倒的空間演出は本当に素晴らしかったです。ここでの侑の気持ちをまとめると、以下のようになります。

・燈子への特別な想いを自覚した

・初めての感情に対する驚き

・余裕がなく気持ちの整理がつかない

 

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このシーンは侑が「特別」を知ったという点でやが君の中でとても重要なシーンです。ここで触れておきたいのが、1話で侑が男の子からの電話に出て告白を断るシーンです。その時の侑の言葉は以下の通りです。

少女漫画もラブソングの歌詞も わたしにはキラキラと眩しくて でもどうしても届かなくて 意味なら辞書を引かなくてもわかるけど わたしのものになってはくれない

 この気持ちが侑の原点でした。特別を知ることができない悩みですね。この時の背景では、体育館踏切川沿い侑の部屋体育倉庫が順番に描写されていました。

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これはそれぞれ、3話の演説(体育館)、2話でのキス(踏切)、6話での対話(川沿い)、5話での勉強会(侑の部屋)、9話でのキス(体育倉庫)と対応しています。つまり1話で侑と燈子の特別な思い出の場所が示されていたことになります!本当、丁寧すぎる作りですね…!この時は特別にはどうしても届かないという気持ちを抱えていた侑。9話に来てやっと「特別」を知ることができたんですね…。感慨深いシーンです。燈子は侑にとっての「光」でした。ちなみに、OPの考察記事でも触れましたが燈子の「燈」という漢字には灯(ともしび)やあかりという意味があります。深海にいる侑を照らしてくれたのは燈子の「灯り」だったんですね。

 

③体育倉庫での葛藤

体育倉庫の場面では、侑は自分からキスをすることは超えてはならない一線だと感じ、踏みとどまります。これは、槙くんに嘘をついた時と同様に、これ以上燈子を好きになったらより苦しくなると直感的に理解しているからだと考えられます。燈子が侑の好意を拒否している限り、侑はこれ以上好きになればなるほど苦しんでしまうからです。ただ、「だめって何が?」「わからない でも」と述べているように、侑はまだ完全に自分の気持ちを理解してはいません。非常に複雑かつ切ないですね…。

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ここでの侑の気持ちをまとめると、以下のようになります。

・燈子のことは特別だと自覚している

・燈子のことをこれ以上好きになってはならないと直感的に理解している

・なぜ自分からキスをしてはいけないのかは分からない

 

以上が侑の心情変化です。少し冗長になってしまいましたが、①~③を見ると侑が特別な気持ちを知ることができた反面、どんどん苦しい状況になっていることが分かります。また、侑は「特別」を自覚しましたが、好きという気持ちがどういうものなのかはまだ整理する余裕がないという状態です。この状況だと侑が苦しむ場面が出てきそうですね…。次回以降も目が離せません!

 

侑と槙くんの対話

Aパートでは、槙くんと侑が会話するシーンでの演出がありました。これは、1話でも用いられた演出ですね。以前OP考察の記事での演出の意味について言及したことがありましたが、水は侑の心を表していると思います。9話の描写の水と、1話の水の描写を比べてみると受ける印象がかなり違います。1話の描写が孤独な深海にいるようなイメージであるのに対し、9話では透き通った水中に光が差し込んでいます。これは、侑が特別なきらきらした感情に近づいていることを示しているのではないでしょうか。侑は差し込む光を眩しそうにしていますが、逆に考えれば光が侑にも差しているということですね。1話の時に光が差していたのは朱里とこよみだけでした。ちなみに侑が手にしているのも水のペットボトルです。は侑にとって特別な意味を持っているのですね。

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また、槙くんと侑が廊下の外を見るシーンでは、槙くんが窓の空いている位置にいるのに対して、侑は窓が閉まっている位置にいます。この透明なガラスは、侑が特別な気持ちに触れられない現状を示しているのではないでしょうか。このシーンで侑は、「私もみんなみたいになりたい」という場面でガラスに手を触れます。そして「七海先輩がそのままでいいって言ってくれたから」と寂しそうに語り、ガラスに触れていた手を離します。これは、ガラスの向こうの特別に触れたいという想いと、燈子への特別な想いに触れられない寂しさを示していると思います。燈子は侑の好意を受け付けないので、侑にとっては特別な気持ちが見えていても触れてはいけない状況になっています。見えるけれど触れることはできないということを、透明なガラスで表現しているのではないでしょうか。

 

位置について/号砲は聞こえない

タイトルの意味についてです。まず「位置について」とは、陸上競技などでスタート位置につく際の決まり文句です。これは、登場人物達が恋愛のスタート位置に着いたということを示しているのではないでしょうか。その中でも、特に9話で位置に着いたのはだと思います。素晴らしいリレーの描写がありましたが、侑はリレーで走る燈子を応援している際、自身の特別な気持ちを確かに実感しました。この時、侑は恋愛のスタート位置に着いたのだと思います。

その後のこよみに「どうかした?」と言われるシーンについては、電撃大王編集者のクスノキさんがこんなツイートをされていました。

 ここで注目したい点は、以前は朱里やこよみと侑の距離が離れていたのに対して、9話では朱里やこよみと同じ場所に侑がいるという点です。これは、侑が感じていたみんなと自分との違い(特別な感情を知っているかの違い)がなくなり、みんなと同じ場所に着いた(特別を知った)ことを示しているのではないでしょうか。この描写はBパートのものですが、侑が特別を知りスタート位置に着いたということを示したタイトルが「位置について」なのではないでしょうか。

 

次にBパートのタイトル「号砲は聞こえない」についてです。号砲が聞こえないということは、スタートできないということです。これは、侑が自分の特別な気持ちを止められていて恋ができないことを示しているのではないでしょうか。クスノキさんは原作の扉絵についてもツイートされていました。

 ここで注目したいのは、「号砲は聞こえない」の絵では侑の耳を燈子(恐らくですが)がふさいでいます。これは、燈子が侑の好意を受け入れないことで、侑の特別な気持ちが縛り付けられている状態を表現しているのだと思います。侑が恋愛のスタート位置に着いても、燈子が耳をふさいで(侑の好意を拒否)いるので「号砲が聞こえない」ということではないでしょうか。

 

 

感想

9話では、侑が「特別」を自覚したという点で物語がまた一つ進んだ回でした。視聴者が侑の内面の変化を追っていけるように、①槙くんとの対話、②リレーのシーン、③体育倉庫という構成で侑の内面描写をした点は見事でした。

また、リレーの描写では挿入歌も素晴らしく、キャラクターのセリフも素晴らしく…。侑が特別を知るシーンは圧倒的でしたが、沙弥香と侑のバトンも好きなシーンの1つです。

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バトン、しっかりと繋がりましたね。侑を待つ沙弥香の表情がまた良かったです。侑を認めて、信頼しているような優しい表情でした。そして、沙弥香の「燈子。もう、いついつもそうやって…!」というセリフもかっこよかったです。
また、侑がハチマキを締めるシーンも良かったです。侑は、本気で勝ちたいと思っている燈子を見て頑張ろうと思ったんですね。

侑が特別を自覚するシーンでは、まるで世界が侑と燈子だけになったような演出が見事です。やが君らしい繊細な空間表現でした。侑が特別を知り、物語として大きく動いた9話でしたが、これからどんな展開になるのか注目です!

 

他の方のブログ紹介

最後に、筆者が紹介したいと思うブロガーさんについて述べます。

 

まずは、いつも大変分かりやすく記事をまとめられているゆっちーさんです。
この記事では触れていない、燈子の「侑からしてほしいかも、キス」というセリフや、体育倉庫での侑のモノローグについても面白い考察をされています。

www.anime-kousatsu.com


次に紹介するのはいつも独創的な記事を書かれているづかさんです。

今回もとても独特な視点での考察をされています。特に波についての考察はとても面白かったです。自由な発想とはこういうことを言うのだと思いました。

zuka-poke.hatenablog.com

 


以上が9話の考察・感想になります。色々な人と解釈を共有するために始めたブログですが、コメントをいただいたり紹介していただけて嬉しかったです。他の方の記事では色々な考えを知ることができ、みなさんのおかげでより「やが君」が好きになった気がします。

素晴らしい原作を作って下さった仲谷先生、編集者のクスノキさん、そしてアニメ制作をして下さったスタッフの方に感謝です。
そして記事のコメントやリツイートをして下さった方、ありがとうございました。
最後に、この記事を読んで下さった方、ありがとうございました!

やがて君になる 8話 考察 感想

この記事は、やがて君になる8話の考察です。今回も紫陽花の演出などは色々な解釈ができると思うので、こんな考え方もあるんだと思っていただければ幸いです。(※アニメのネタバレ有です!アニメ最新話までの内容を含むので、未視聴の方は先に視聴することを強くお勧めします。)

 

紫陽花の色と3つの問いかけ

8話では、紫陽花アジサイ)による演出が特徴的でした。ピンク、白と場面ごとに異なる色が登場します。この紫陽花の色の示しているものについては、様々な解釈ができると思います。

これは筆者の解釈ですが、紫陽花の色はそれぞれ燈子、侑、沙弥香を示していると感じました。が燈子、ピンクが侑、白が沙弥香です。また、8話では燈子が沙弥香に、沙弥香が侑に、侑が燈子にそれぞれ好きな紫陽花の色について問いかけます。この時の2人の組み合わせによって紫陽花の色が異なっているので、それぞれのシーンを見ていきます。

 

燈子から沙弥香への問いかけ

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このシーンでは燈子が沙弥香に好きな紫陽花の色を問いかけています。紫陽花の色は、白ですね。これは青が燈子、白が沙弥香を示していると思います。燈子の問いかけに対する沙弥香の答えは意図的に描写されていませんが、筆者は(燈子)と答えたのではないかと思いました。理由の1つとしては、沙弥香が着ているワンピースの色がであったことです。偶然ではないような気がします。

ちなみにこのあたりの解釈は、筆者がいつも楽しみに読ませていただいているゆっちーさんの記事と概ね同じですね。とても分かりやすく解説されています!

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沙弥香から侑への問いかけ

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©2018 仲谷 鳰/KADOKAWA/やがて君になる製作委員会 ​

このシーンでは沙弥香が侑に問いかけています。紫陽花の色はピンク、白(黄色)ですね。白は黄色にも見えます。紫陽花の花言葉に黄色はなかったと思うのですが、OPでも黄色の紫陽花があったのでもしかするとやが君では黄色の紫陽花に独自の意味を持たせているのかもしれません。ひとまず筆者は初見ではピンクが侑、白が沙弥香と解釈しました。沙弥香からの問いかけに対する侑の答えはここでも描写されていませんが、筆者は(燈子)と答えたのではないかと思いました。

理由は2つあります。1つは第5話にあった侑の部屋での描写が挙げられます。燈子が「私は君じゃなきゃやだけど…」と不安を打ち明けるシーンがありましたが、この時侑は筆箱から青いシャープペンシルを取り出しています。これは、いくつかある筆記用具の中から青色(燈子)を選んでいることを示していたのかもしれません。その時の侑の言葉も燈子を選ぶことについて言及しているように思います。タイトル「続・選択問題」選択とはそういうことなのかもしれませんね。

2つ目の理由は、OPのイントロにおける紫陽花の花びらの描写です。ピンクが侑の手に、が燈子の手に落ちています。そして、よく見ると侑の手は青い花びら(燈子)を包み込むような描写になっています。これは、完璧を演じるプレッシャーに耐える燈子を支えることを示しているのではないでしょうか。

 

侑から燈子への問いかけ

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©2018 仲谷 鳰/KADOKAWA/やがて君になる製作委員会 ​

このシーンでは侑が燈子に問いかけています。紫陽花の色はピンクです。この色もそれぞれピンクが侑、が燈子だと感じました。ただ、他の2つの問いかけと違って燈子は侑の問いに答えることなく眠ってしまいます。本来ならピンク(侑)と答えていそうなものですが、あえて眠っている描写にしたということが気になりました。

色々考えたのですが、筆者は燈子がずるいということを演出しているのかなと思いました。この後に続く侑の言葉は、「ほんと、七海先輩って…」ですが、こういう時に答えてくれない燈子ってずるいと思いました(笑)。侑の燈子に対する想いが徐々に強くなっており、侑は燈子にピンク(侑)が好きと言ってほしかったのではないかなと。


ただ、眠っている演出は紫陽花の色を他の解釈で捉えると違った考察になります。以下の引用はゆっちーさんの記事にあるmostigerさんのコメントの一部です。(mostigerさんはいつも鋭いコメントをされています!)

わたしは3色のあじさいはどれも燈子を指すと考えています。
そして、青色は現在の燈子の人物像、白色、ピンク色は沙弥香、侑がこれからの燈子にどのような人物になってほしいかを表していると思います。

 この解釈における侑から燈子への問いかけの意味は、侑が燈子に「あなたはどんな色に咲きたいですか」と質問していることになります。この場合の燈子の眠り(沈黙)を筆者なりに解釈すると、燈子の回答は「まだ自分が何色に咲きたいか分からない」というものになります。今は完璧な人物を演じ続けていますが、その先にどうなるのかまだ分からないということですね。これは8話で侑と沙弥香が話していたトピックでもあります。

 

手の描写による演出

8話では手による描写も特徴的です。場面によって様々な演出が登場します。

すべてを画像と共に紹介することは難しいですが、いくつか紹介します。まず、アバンで燈子を待っている沙弥香の髪の毛を触るシーン。これは沙弥香のくせですね、燈子が来るのはまだかな、まだかなという気持ちを表しているように思います。その後、過去の回想シーンにおける沙弥香の脱力感を示した手の動き。そして、先輩の言葉に対するいら立ちを示す右手の描写。このような心情を示した手の描写は繊細でやが君の魅力の1つだと思います。

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そして燈子と沙弥香が手をつなぐシーンです。今の私(沙弥香)には燈子がいるってことを見せつける行動です。この時の沙弥香は見ていて清々しいですね。ここの沙弥香の描写はBパートの侑の描写と対照的だと思います。Bパート冒頭のシーンでは、侑が6話での回想をしていますが、燈子が侑の好意を受け入れてくれないことを侑の伸ばした手が空を掴む演出で表現されています。沙弥香とは対照的に、侑は燈子の手を握れません。

ベンチで雨宿りをしている時も、手を握りたいという想いに気づいても触れることができません。燈子が侑の好意を明確に拒否したからです。このシーンは息が止まりそうでした。ちなみに、侑が「嬉しかった」といった後、緑の葉から滴が零れ落ちる演出がありますが、これは「緑滴る」という言葉を表現していると思いました。

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この言葉の意味は、若葉などの緑の美しさや鮮やかさがあふれることです。緑の鮮やかさが満ちることは侑に芽生えたきらきらした気持ちを表しているのではないでしょうか。ちなみにBパートで侑が学校の図書室にいる際手に取っていた本のタイトルは『緑滴る』でした。

また、ベンチでの侑が燈子の手を握れないシーンでは、侑の寂しさや燈子に触れたら関係が壊れてしまうという恐怖が手の演出で巧みに表現されています。

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侑と沙弥香のバトンパス

侑と沙弥香のバトンパスは、2人の心の距離を示していると思います。Aパートでは、沙弥香と侑のバトンパスが繋がりません。元々沙弥香は燈子に対して好意をもっており、その燈子と侑があまりに親しげなので侑に対して思うところがあったのでしょう。しかし、侑と沙弥香が一緒に放課後を過ごしたことで何かが変わりました。

ファストフード店で、侑と沙弥香は燈子に対する話題で会話しています。お互い相手が燈子に対して特別な意味での好意をもっていると分かっていますが、いまいち本音で話せません。この時点では、侑と沙弥香は足並みがそろっていないと感じます。横断歩道の信号はそんな2人の足並みを示していると思います。会話の途中何回か歩行者信号が描写されますが、途中まですべてです。

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しかし、ファストフード店を出た後の会話で、侑と沙弥香の心の距離が近くになります。侑は燈子についてこう述べます。「それをやり遂げたら…七海先輩はもう演技しなくてよくなるんでしょうか」「先輩は先輩になれるのかな…」この言葉を聞いて、沙弥香と侑は燈子と手をつないだシーンを連想します。

ここでのポイントは、お互いにとって燈子が演じなくなることは少なくとも悪いことではないということです。侑には侑、沙弥香には沙弥香の想いがありますが、燈子が演技をしなくなってほしいという点は共通しています。この共通点が、タイトルにもなっている「交点」なのかもしれません。2人は燈子という同じ人物に好意を抱いていて、どちらかというと気が合いそうですよね。ここで、歩行者信号はに変わります。

ちなみに、偶然かもしれませんが横断歩道を渡る前と後では侑と沙弥香の距離が近くになっているように見えます。この出来事を経て縮まった2人の心の距離を、Bパートのラストではバトンパスが繋がることで表現しているのかもしれません。

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降り籠める

考察の最後に、あまり触れることができていないBパートのタイトルについて述べます。降り籠めるとは、雨や雪がしきりに降り家などに閉じ込めることをいいます。確かにBパートでは雨が降り続き、侑は学校に閉じ込められてしまいますね。しかし、降り籠めるとは侑の燈子に対する気持ちにも当てはまると思います。燈子は侑の好意を受け入れず、侑は燈子に対して特別な想いを伝えることができません。この閉じ込められた気持ちは、降り籠めるというタイトルで表現されていると思いました。せっかく特別な気持ちが芽生えたのに、閉じ込められてしまう侑が切ないですね…。

 

感想

8話は様々な解釈ができる魅力はもちろんのこと、沙弥香の照れているシーンや「特別」に気づき始めた侑の描写が最高でした。特に傘の取り合いと「困らないよ」、ベンチでの「嬉しかった」は感無量です。「嬉しかった」という言葉が非常にすんなり侑からでてきて、その気持ちが特別な意味だということには侑自身もあとから気づいたように見えました。今は「いいか、このままでも」と言っている侑ですが、今後どうなっていくのか注目です!

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以上が8話の考察、感想です。相変わらず一つひとつの場面が濃密かつ繊細で…。制作スタッフの方がすごすぎますね。また他の方の考察記事も様々な解釈がありとても面白いです。スタッフの方やブロガーさんに感謝です。
また、ここまで読んで下さった方、ありがとうございました!


 

やがて君になる 7話 考察 感想

この記事ではやがて君になる7話の考察を行います。すでに多くの方が考察記事を公開していますが、十人十色の解釈がありどの記事も楽しく読ませていただきました。

筆者は普段ブログを書かないのですが、色々な解釈が共有されることで、やが君がより一層楽しめるコンテンツになると思い遅ればせながら記事を投稿することにしました。
(※アニメのネタバレ有です!アニメ最新話までの内容を含むので、未視聴の方は先に視聴することを強くお勧めします。)


「秘密のたくさん」(Aパート)

第7話のタイトルはAパート「秘密のたくさん」とBパート「種火」です。まずはAパートに関しての考察です。

沙弥香と燈子の距離

沙弥香は燈子への好意を自覚していますが、自分から伝えることはありません。また、燈子が本当は完璧な人物ではないと知りながらそれについて触れることはありません。詳しくは、後述するBパートのシーンで解説します。ここで注目したいのは、そうした燈子と沙弥香の距離感が窓の仕切りで表現されているのではないかという点です。本当にやが君ではカット一つひとつに意味が込められていますよね、大切にされている作品だと感じます。

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©2018 仲谷 鳰/KADOKAWA/やがて君になる製作委員会

沙弥香は言いたいことがあっても踏み込みません。下の会話で燈子が嘘をついていることに明らかに気づいていながら、追及したりはしません。そんな沙弥香の距離を置く姿勢手を引っ込める演出で表現されています。こういう場面で、沙弥香の心にもやもやが溜まっていくんでしょうね…。


沙弥香「あの子のどこをそんなに気に入ってるの?」
燈子「だって生徒会の一年で女の子は小糸さんだけなんだし、仲良くしてて何か不思議?」

沙弥香「…そう」

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燈子と侑の距離

燈子が沙弥香に対して演じている自分を見せることとは対照的に、侑に対しては素の状態で甘えます。どこまで侑に踏み込んだらそのまま(燈子のことが特別でない)でいてくれるのかとドキドキしています。ほんと、燈子ってずるいですよね(笑)。ちなみにどこまで踏み込んだら、という部分はミラーに映った止まれの標識で比喩表現されていました。沙弥香との距離感を目の当たりにした後だからか、侑と肩を並べて歩く時の距離がより一層近くに感じます。これが燈子にとっての特別な人との距離感なのでしょう。

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©2018 仲谷 鳰/KADOKAWA/やがて君になる製作委員会

 

それぞれの秘密

タイトルにもある通り、Aパート全体としては登場人物の秘密に焦点を当てています。

それぞれの秘密に関して振り返ると、以下のようになっています。

:こよみや沙弥香に対して燈子先輩との関係を秘密に。燈子に対してかわいいと感じていることを秘密に。

沙弥香:燈子に対して好意を抱いているということを秘密に。

燈子:沙弥香に対して完璧でない自分や侑との関係を秘密に。

理子:都との関係を秘密に。

…秘密ばかりですね(笑)。

 

種火(Bパート)

続いてBパート「種火」の考察に入ります。

 窓の仕切りがまた絶妙な位置にありますね(笑)。沙弥香と燈子が隔てられているだけではなく、侑と燈子が同じ左側にいます。直接的な距離は沙弥香の方が近くにいるのに、実際には侑と燈子の方が秘密の関係であることを暗に示しているように感じます。繊細な演出ですね。

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沙弥香の心のもやもやとコーヒー

燈子が今まで類を見ないほどに誰か(侑)との距離を縮めるのを目の当たりにした沙弥香。これまで溜め込んでいた心のもやもやで胸が張り裂けそうになります。自室の沙弥香は、燈子は誰のものにもならないと自分に言い聞かせます。これは筆者の解釈ですが、コーヒーは沙弥香の心象風景を示すアイテムとなっています。沙弥香はブラックコーヒー派ですが、ブラックコーヒーを飲むことは苦い気持ちを飲み込む沙弥香を示していると考えられます。自室での場面では沙弥香が飲むシーンが意図的にカットされていますが、この時の沙弥香は寂しく張り裂けそうな表情をしていたのではないでしょうか。

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©2018 仲谷 鳰/KADOKAWA/やがて君になる製作委員会



意図的なカットをする演出

やが君では、直接的な表現をあえて控える演出が多くなされています。なぜこのような演出をするのか、筆者の個人的解釈を述べると、「直接的に表現しきってしまうよりも解釈の余白を残したほうが魅力的な作品になるから」ではないかと感じています。例えば、見返り美人図という絵画がありますが、これは振り返っている先に何が描かれているのか観る人によって様々だと思います。このように、描き切ってしまえばそこにあるものがすべてですが、余白があることで視聴者によって十人十色の作品になると思います。同様に、やが君も様々な場面で意図的に描き切らない演出がなされており、だからこそ様々な考察記事も生まれているのかなと思います。(あくまで筆者の解釈なので、制作の方が全く違う意図の可能性も大いにあります。)

 

大人な都と沙弥香とコーヒー

 燈子も侑と出会うまで癒しとなる存在がなく孤独でしたが、沙弥香もひとりもやもやとした気持ちを抱えていました。周りの人に対して大人らしく振る舞う沙弥香が頼ったのは、大人の都でした。都のカフェでおそらく初めて燈子のことを誰かに打ち明けた沙弥香。1杯目のコーヒーを飲む描写はカットされていますが、いつもの寂しい気持ちで飲むコーヒーとは違った表情だと思いました。次に、サイフォンと呼ばれる器具のフラスコで水が水蒸気となってコーヒーへと変わっていく描写がありますが、これは沙弥香の燈子に対する想い(水)が打ち明けられないことにより心のもやもや(コーヒー)に変わっていく様子を示しているのではないかと思いました。コーヒーが溜まっていく様子は沙弥香の心にあふれていく苦い気持ちと重なります。

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この後、空のコーヒーカップの中で2つの滴が落ちますが、直前の沙弥香の表情を見ると、滴は心の涙を示しているのかもしれません。ちなみに、「友人として」という言葉を発したタイミングで滴が落ちていますね…。

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©2018 仲谷 鳰/KADOKAWA/やがて君になる製作委員会

都に心のもやもやを打ち明けた沙弥香。沙弥香が燈子に踏み込まない理由が2つ述べられます。1つは燈子が誰かの好意を受け入れるだけの余裕がないと知っていること。もう1つは、燈子のそばにいたいけれど、燈子に好意を伝えたら近くにいられなくなってしまうという不安。沙弥香は真面目なので、そばにいるために本当の気持ちを隠すことに対しても葛藤を抱えていたのでした。沙弥香の言葉を聞いて、都は沙弥香のことを「いいこ」と表現します。自分の気持ちよりも燈子のことを優先する沙弥香の優しさを考えての発言でした。それに対して、沙弥香は都に自分は優しさだけではなく、関係が壊れる恐怖から踏み込めないだけだと切り返します。コーヒーの波紋には、都がどう答えるか不安な気持ちが表れているかのようです。そして、それを聞いた都は以下の言葉を返します。

「だとしても 本当の気持ちを飲みこむのは 大変なことだよ」

沙弥香にとって、初めて自分の心の葛藤が誰かに理解された瞬間だったのではないでしょうか。7話冒頭で描写された中学生の頃の経験では、自分の心は誰にも理解されず打ち明けることもできないままでした。しかし都は沙弥香の心の辛さを感じ取ってくれたのだと思います。都の言葉を聞いた沙弥香の表情には驚きと同時に晴れやかさが感じられます。テーブルに落ちた水滴を拭う都の描写は、心で泣いている沙弥香の涙を拭ってくれた(なぐさめてくれた)ことを示しているのかもしれません。

そして、「いただきます」とサービスでもらった2杯目のコーヒーを、いつもとは違った表情で口にするのでした。

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©2018 仲谷 鳰/KADOKAWA/やがて君になる製作委員会

 

心の種火

エンディングでは、沙弥香の気持ちがモノローグ(独白)で語られます。Bパートのタイトル「種火」はいつか胸を破るかもしれない沙弥香の心のもやもやを示していたんですね。他の考察の記事でも触れられていますが、最後は廊下の黄色い直線で隔てられた燈子と沙弥香が平行(交わらない)に歩く後ろ姿が映されます。沙弥香は「今はまだこのままで」と述べていますが、これからどうなるのかは注目ですね。

 



以上が7話の考察になります。何度見ても新しい発見がありますし、最新話を見てから見返すとまた違った演出に見えるシーンもあります。今後感想なども含めて加筆するかもしれません。

 

やが君を制作して下さったスタッフの方と仲谷先生に感謝です。

また、長々と読んで下さった方、ありがとうございました!