やが君 考察

やがて君になる (アニメ)の考察ブログです!

やがて君になる 9話 考察 感想

この記事は、やがて君になる9話の感想・考察です。(※アニメのネタバレ有です!アニメ最新話までの内容を含むので、未視聴の方は先に視聴することを強くお勧めします。)

 

はじめに

9話では、侑が「特別」を自覚したという点で物語がまた一つ進んだ回でした。背景の描写では1話からの伏線もありとても丁寧に作られている作品だと改めて感じました。構成としては、特に侑の心情変化が視聴者が理解しやすいようになっていて見事でした。そして、リレーや体育倉庫のシーンでは圧倒的空間描写が素晴らしく、やが君らしい綺麗な演出でした。

 

侑の心情変化

アニメやが君の全13話における9話の大きな出来事は侑が「特別」を自覚したという点です。9話を侑の心情変化という点で見ると①槙くんとの対話②リレーでの「特別」の自覚③体育倉庫での葛藤という流れがあり、視聴者が侑の心情を追いやすい見事な構成になっています。冗長かもしれませんが、少し丁寧にそれぞれの場面を確認していきます。

 

①槙くんへの言葉からみる侑の本心

ここでは、槙くんと侑が「特別な感情」について語り合います。水の描写については後述します。ここでは侑の言葉と心情について確認します。

この場面では、侑は槙くんに対して“自分の気持ち”を述べます。しかし、これは侑の本心とはむしろ反対です。以下は侑の言葉の一部です。

「七海先輩のこと好きじゃないから」「わたしは誰も好きにならないもん」「槙くんはそれを寂しいと思ったことはないの?」「わたしももう好きになろうなんて思わなくていいや」

侑の本当の気持ちはむしろ、「七海先輩のことが好き」「寂しい」「もっと好きになりたい」ではないでしょうか。ちなみに、侑は嘘をつくときどうしても目をそらしてしまいます。

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©2018 仲谷 鳰/KADOKAWA/やがて君になる製作委員会 ​

 

この場面では、侑は自分の本心に気付かぬフリをしているように見えます。槙くんだけでなく、自分にも嘘をついているとも言えます。ではなぜ侑は嘘をついているのでしょうか。筆者なりの考えは、「燈子を好きな気持ちを認めたらより苦しくなると直感的に理解しているから」だと思います。

とても複雑なので分かりやすく説明しにくいのですが、この時点の侑の心情や行動をまとめると以下のようになります。

・燈子に対して特別な感情があると心のどこかでは分かっている

・燈子への想いを認めると自分がより苦しくなると直感的に理解している

・苦しまないため、自分や周りに燈子が好きという気持ちを隠す


②「特別」を知ったリレー

リレーの場面で、侑は明らかに「特別」を自覚しました。恐らく、侑は走り終わったのにもかかわらず心臓が高鳴っていることに気づいてしまったのではないでしょうか。まるで、時が止まったかのように、燈子と自分だけの世界を見ています。これは、特別以外の何物でもありませんよね。このシーンの圧倒的空間演出は本当に素晴らしかったです。ここでの侑の気持ちをまとめると、以下のようになります。

・燈子への特別な想いを自覚した

・初めての感情に対する驚き

・余裕がなく気持ちの整理がつかない

 

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©2018 仲谷 鳰/KADOKAWA/やがて君になる製作委員会 ​

 

このシーンは侑が「特別」を知ったという点でやが君の中でとても重要なシーンです。ここで触れておきたいのが、1話で侑が男の子からの電話に出て告白を断るシーンです。その時の侑の言葉は以下の通りです。

少女漫画もラブソングの歌詞も わたしにはキラキラと眩しくて でもどうしても届かなくて 意味なら辞書を引かなくてもわかるけど わたしのものになってはくれない

 この気持ちが侑の原点でした。特別を知ることができない悩みですね。この時の背景では、体育館踏切川沿い侑の部屋体育倉庫が順番に描写されていました。

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©2018 仲谷 鳰/KADOKAWA/やがて君になる製作委員会 ​
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©2018 仲谷 鳰/KADOKAWA/やがて君になる製作委員会 ​

 

これはそれぞれ、3話の演説(体育館)、2話でのキス(踏切)、6話での対話(川沿い)、5話での勉強会(侑の部屋)、9話でのキス(体育倉庫)と対応しています。つまり1話で侑と燈子の特別な思い出の場所が示されていたことになります!本当、丁寧すぎる作りですね…!この時は特別にはどうしても届かないという気持ちを抱えていた侑。9話に来てやっと「特別」を知ることができたんですね…。感慨深いシーンです。燈子は侑にとっての「光」でした。ちなみに、OPの考察記事でも触れましたが燈子の「燈」という漢字には灯(ともしび)やあかりという意味があります。深海にいる侑を照らしてくれたのは燈子の「灯り」だったんですね。

 

③体育倉庫での葛藤

体育倉庫の場面では、侑は自分からキスをすることは超えてはならない一線だと感じ、踏みとどまります。これは、槙くんに嘘をついた時と同様に、これ以上燈子を好きになったらより苦しくなると直感的に理解しているからだと考えられます。燈子が侑の好意を拒否している限り、侑はこれ以上好きになればなるほど苦しんでしまうからです。ただ、「だめって何が?」「わからない でも」と述べているように、侑はまだ完全に自分の気持ちを理解してはいません。非常に複雑かつ切ないですね…。

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©2018 仲谷 鳰/KADOKAWA/やがて君になる製作委員会 ​



ここでの侑の気持ちをまとめると、以下のようになります。

・燈子のことは特別だと自覚している

・燈子のことをこれ以上好きになってはならないと直感的に理解している

・なぜ自分からキスをしてはいけないのかは分からない

 

以上が侑の心情変化です。少し冗長になってしまいましたが、①~③を見ると侑が特別な気持ちを知ることができた反面、どんどん苦しい状況になっていることが分かります。また、侑は「特別」を自覚しましたが、好きという気持ちがどういうものなのかはまだ整理する余裕がないという状態です。この状況だと侑が苦しむ場面が出てきそうですね…。次回以降も目が離せません!

 

侑と槙くんの対話

Aパートでは、槙くんと侑が会話するシーンでの演出がありました。これは、1話でも用いられた演出ですね。以前OP考察の記事での演出の意味について言及したことがありましたが、水は侑の心を表していると思います。9話の描写の水と、1話の水の描写を比べてみると受ける印象がかなり違います。1話の描写が孤独な深海にいるようなイメージであるのに対し、9話では透き通った水中に光が差し込んでいます。これは、侑が特別なきらきらした感情に近づいていることを示しているのではないでしょうか。侑は差し込む光を眩しそうにしていますが、逆に考えれば光が侑にも差しているということですね。1話の時に光が差していたのは朱里とこよみだけでした。ちなみに侑が手にしているのも水のペットボトルです。は侑にとって特別な意味を持っているのですね。

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©2018 仲谷 鳰/KADOKAWA/やがて君になる製作委員会

 

また、槙くんと侑が廊下の外を見るシーンでは、槙くんが窓の空いている位置にいるのに対して、侑は窓が閉まっている位置にいます。この透明なガラスは、侑が特別な気持ちに触れられない現状を示しているのではないでしょうか。このシーンで侑は、「私もみんなみたいになりたい」という場面でガラスに手を触れます。そして「七海先輩がそのままでいいって言ってくれたから」と寂しそうに語り、ガラスに触れていた手を離します。これは、ガラスの向こうの特別に触れたいという想いと、燈子への特別な想いに触れられない寂しさを示していると思います。燈子は侑の好意を受け付けないので、侑にとっては特別な気持ちが見えていても触れてはいけない状況になっています。見えるけれど触れることはできないということを、透明なガラスで表現しているのではないでしょうか。

 

位置について/号砲は聞こえない

タイトルの意味についてです。まず「位置について」とは、陸上競技などでスタート位置につく際の決まり文句です。これは、登場人物達が恋愛のスタート位置に着いたということを示しているのではないでしょうか。その中でも、特に9話で位置に着いたのはだと思います。素晴らしいリレーの描写がありましたが、侑はリレーで走る燈子を応援している際、自身の特別な気持ちを確かに実感しました。この時、侑は恋愛のスタート位置に着いたのだと思います。

その後のこよみに「どうかした?」と言われるシーンについては、電撃大王編集者のクスノキさんがこんなツイートをされていました。

 ここで注目したい点は、以前は朱里やこよみと侑の距離が離れていたのに対して、9話では朱里やこよみと同じ場所に侑がいるという点です。これは、侑が感じていたみんなと自分との違い(特別な感情を知っているかの違い)がなくなり、みんなと同じ場所に着いた(特別を知った)ことを示しているのではないでしょうか。この描写はBパートのものですが、侑が特別を知りスタート位置に着いたということを示したタイトルが「位置について」なのではないでしょうか。

 

次にBパートのタイトル「号砲は聞こえない」についてです。号砲が聞こえないということは、スタートできないということです。これは、侑が自分の特別な気持ちを止められていて恋ができないことを示しているのではないでしょうか。クスノキさんは原作の扉絵についてもツイートされていました。

 ここで注目したいのは、「号砲は聞こえない」の絵では侑の耳を燈子(恐らくですが)がふさいでいます。これは、燈子が侑の好意を受け入れないことで、侑の特別な気持ちが縛り付けられている状態を表現しているのだと思います。侑が恋愛のスタート位置に着いても、燈子が耳をふさいで(侑の好意を拒否)いるので「号砲が聞こえない」ということではないでしょうか。

 

 

感想

9話では、侑が「特別」を自覚したという点で物語がまた一つ進んだ回でした。視聴者が侑の内面の変化を追っていけるように、①槙くんとの対話、②リレーのシーン、③体育倉庫という構成で侑の内面描写をした点は見事でした。

また、リレーの描写では挿入歌も素晴らしく、キャラクターのセリフも素晴らしく…。侑が特別を知るシーンは圧倒的でしたが、沙弥香と侑のバトンも好きなシーンの1つです。

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©2018 仲谷 鳰/KADOKAWA/やがて君になる製作委員会 ​

バトン、しっかりと繋がりましたね。侑を待つ沙弥香の表情がまた良かったです。侑を認めて、信頼しているような優しい表情でした。そして、沙弥香の「燈子。もう、いついつもそうやって…!」というセリフもかっこよかったです。
また、侑がハチマキを締めるシーンも良かったです。侑は、本気で勝ちたいと思っている燈子を見て頑張ろうと思ったんですね。

侑が特別を自覚するシーンでは、まるで世界が侑と燈子だけになったような演出が見事です。やが君らしい繊細な空間表現でした。侑が特別を知り、物語として大きく動いた9話でしたが、これからどんな展開になるのか注目です!

 

他の方のブログ紹介

最後に、筆者が紹介したいと思うブロガーさんについて述べます。

 

まずは、いつも大変分かりやすく記事をまとめられているゆっちーさんです。
この記事では触れていない、燈子の「侑からしてほしいかも、キス」というセリフや、体育倉庫での侑のモノローグについても面白い考察をされています。

www.anime-kousatsu.com


次に紹介するのはいつも独創的な記事を書かれているづかさんです。

今回もとても独特な視点での考察をされています。特に波についての考察はとても面白かったです。自由な発想とはこういうことを言うのだと思いました。

zuka-poke.hatenablog.com

 


以上が9話の考察・感想になります。色々な人と解釈を共有するために始めたブログですが、コメントをいただいたり紹介していただけて嬉しかったです。他の方の記事では色々な考えを知ることができ、みなさんのおかげでより「やが君」が好きになった気がします。

素晴らしい原作を作って下さった仲谷先生、編集者のクスノキさん、そしてアニメ制作をして下さったスタッフの方に感謝です。
そして記事のコメントやリツイートをして下さった方、ありがとうございました。
最後に、この記事を読んで下さった方、ありがとうございました!